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芸題紹介

令和七年春 長浜曳山祭 宮町組 髙砂山

義経千本桜 河連法眼館の場

 兄源頼朝と不仲になった源義経(みなもとのよしつね)の京都からの逃亡を描く『義経千本桜』の四段目の一場になります。

 義経は吉野山にある河連法眼(かわつらほうげん)の館に身を寄せていました。一方、源義経をかくまう河連法眼の妻・飛鳥は、頼朝の重臣・茨左衛門(いばらさえもん)の妹でした。法眼は妻の心底を探るため、義経を討つと見せかけます。兄への内通を疑われた飛鳥は自害しようとしますが、その覚悟を知り、河連法眼は安堵しました。
 すると、佐藤忠信(さとうただのぶ)が、河連法眼の館を訪ねます。義経は静御前(しずかごぜん)の安否を尋ねますが、忠信には覚えがありません。その時、静とその供をするもう一人の忠信が到着。供をしていた忠信は姿を消してしまいました。静御前は、道中で「初音の鼓」を打つと必ず忠信が姿を現したことを思い出し、義経は鼓を手掛かりに、真実の忠信を見極めるよう命じます。
 そこで、静が鼓を打つと忠信が現れ、その音色に聞き入り、鼓の前にひれ伏しました。「初音の鼓」は、桓武天皇(かんむてんのう)の治世、雨乞いのために大和の国で千年の命を保ち、神通力を得た牝狐(めぎつね)と牡狐(おぎつね)の皮を用いた鼓だったのです。忠信はその牝狐と牡狐の子、正体は狐であると語り始めます。
 宮中にあった鼓が、平家討伐の恩賞として義経の手に渡り、その家臣である忠信の姿を借りて、ようやく親に付き添うことができたのでした。親に孝行を尽したいと思い続けて四百年。去年の春から、わずか一年一緒に居ただけでは去ることはできないと狐は泣き叫びます。
 しかし想いを断ち切り、義経から与えられた「源九郎義経」の名前を、自分の名前「源九郎義経(狐=ぎつね)」とすると言い残し、鼓に名残を惜しみながら姿を消しました。
奥で様子を聞いていた義経は、生後間もなくの父親との死別し、親同然の兄頼朝との不和になるという自身の身上のはかなさに比べ、狐の親子の絆(きずな)の強さに心動かされました。義経は、再び姿を現した狐に、静御前の供をした褒美として鼓を与えます。
狐は吉野金峯山寺(きんぷせんじ)の横川覚範(よかわかくはん)が夜襲に来ると知らせ、神通力で援護すると約束し、鼓を持って一礼すると、飛ぶように姿をくらませるのでした。

 狐忠信の両親へのひたむきな愛情を見せることで、骨肉の争いに明け暮れる人間の醜さを浮き彫りにしている演目です。

登場人物系図